AI議事録アプリは、録音から文字起こし、要約までを自動で行う便利な道具です。ただし、会議の音声には取引先名、金額、人事の話など、外に出したくない情報が含まれます。精度や価格だけで選ぶと、あとで困ることがあります。たとえば「録音がどこに保存されているか分からない」「書き出した形式が社内の保存先に合わない」といった問題です。
この記事では、特定の製品に頼らずに候補を比べるための確認項目と、試用で確かめる手順をまとめます。議事録そのものの書き方や、文字起こしから議事録を作る手順は扱いません。
比べる前に決めておく3つのこと
候補を見始める前に次の3つを決めておくと、比較の基準がぶれません。
- どの会議で使うか:社内の定例だけか、取引先との打ち合わせや面談も含むか
- どんな情報が話されるか:個人情報、顧客情報、未公開の数字、契約条件などが出るか
- どう録音するか:オンライン会議か、対面か、その両方か
扱う情報が重いほど、精度よりもデータの扱いを優先して確認します。社内に生成AIや外部サービスの利用ルールがある場合は、そのルールを前提にします。
確認項目の一覧
| 分類 | 確認すること | 主な確認先 |
|---|---|---|
| 保存先 | 録音・文字起こし・要約がどこに保存されるか(クラウドか端末内か、どの地域か) | プライバシーポリシー、セキュリティ資料、FAQ |
| 保存期間・削除 | 保存期間、自動削除の設定、削除したときに何が消えるか | ヘルプ、管理画面、利用規約 |
| 学習利用 | 入力データがAIの学習やサービス改善に使われるか、オフにできるか | 利用規約、プライバシーポリシー、設定画面 |
| 外部送信 | 文字起こしや要約に他社のAIサービスを使っているか | プライバシーポリシー、セキュリティ資料 |
| アクセス権 | 誰が見られるか、共有リンクの範囲、管理者機能 | ヘルプ、法人プランの説明 |
| 話者の識別 | 話者を分けられるか、名前を付け直せるか | 試用で確認 |
| 精度 | 固有名詞・数字・専門用語の正確さ、単語登録の有無 | 試用で確認 |
| 録音方法 | 会議への参加方法、対面での録音、ファイルのアップロード | ヘルプ、試用 |
| 出力形式 | 書き出せるファイル形式、タイムスタンプ・話者名の有無 | 試用で確認 |
| 費用・上限 | 月の録音時間、1回の長さ、ファイルサイズ、ユーザー数 | 料金ページ |
以下では、判断を誤りやすい項目を順に見ていきます。
1. 録音データの保存先と保存期間
確認するのは、データが「どこに」「いつまで」残るか、そして「何が」残るかです。
- どこに:クラウドに保存されるのか、端末内だけで処理されるのか。クラウドの場合、データを保管する地域を明記しているか。
- いつまで:保存期間に上限があるか。自動削除を設定できるか。
- 何が:録音ファイル、文字起こし、要約、共有リンク、バックアップのうち、どれが残るか。
特に見落としやすいのが削除の範囲です。画面上で会議を削除しても、次のような扱いになっていることがあります。
- 録音ファイルだけが残る
- ゴミ箱に一定期間残る
- バックアップからは遅れて消える
こうした扱いはサービスによって異なります。ヘルプやプライバシーポリシーに削除後の扱いが書かれているかを確認してください。書かれていなければ、問い合わせ窓口で確かめます。
2. 学習への利用
入力した音声や文字起こしが、AIモデルの学習やサービス改善に使われるかを確認します。
- 学習への利用は、最初からオンになっているか、オフになっているか
- 利用者が設定でオフにできるか、法人向けプランでは扱いが変わるか
- 学習とは別に、品質改善のために人が内容を確認する場合があるか
- 文字起こしや要約に他社のAIサービスを使っている場合、その先での扱いがどう説明されているか
「学習に使わない」と書かれていても、注意が必要です。対象が音声だけなのか、文字起こしや要約も含むのかで意味が変わります。どの文書のどの箇所に書いてあったかを、確認した日付と一緒に控えておきます。規約は改定されることがあるため、導入後も見直す時期を決めておきます。
3. 共有範囲とアクセス権
議事録アプリのデータは、会議のたびに増えていきます。誰が何を見られるかが曖昧なままだと、本来見せない人に会議の内容が見えてしまいます。
- 記録は作成者だけが見られるのか、チーム全体に共有されるのか
- 共有リンクの範囲が「リンクを知っている人なら誰でも」になっていないか
- 共有リンクに期限やパスワードを付けられるか
- 退職者や異動者のアカウントとデータをどう扱えるか
- 管理者が利用状況やアクセス履歴を確認できるか
個人で使う場合でも、共有リンクの最初の設定範囲だけは確認しておきます。
4. 話者の識別
話者の識別は、製品の説明だけでは判断しにくい項目です。試用で次の点を確かめます。
- 話者が何人まで分かれるか、別の人を同じ人にまとめていないか
- 「話者1」「話者2」などを実名に付け替えられるか、付け替えが会議全体に反映されるか
- 発言が重なったときや、短い相づちのときにどう扱われるか
- 対面で1台のマイクを使う場合と、オンライン会議で各自のマイクを使う場合で、結果が変わるか
オンライン会議と連携する方式では、参加者の表示名を使って話者を分けることがあります。そのため、オンラインで試した結果は対面会議には当てはまらない場合があります。対面会議が多いなら、対面で録音したデータで確かめてください。
5. 文字起こしの精度
精度は全体の印象で判断せず、間違えると困る箇所で見ます。
- 取引先名、商品名、人名
- 金額、数量、日付、期限
- 社内の略語や業界の専門用語
単語登録(辞書)の機能があるか、登録した語が要約にも反映されるかも確認します。
要約機能は便利ですが、文字起こしにない内容を補ってしまうこともあります。要約と元の文字起こしを並べて比べられるかも見ておきます。
6. 出力形式
必要な形式は、議事録をどこで使うかによって変わります。
| 使い道 | 確認したい形式・機能 |
|---|---|
| Wordで清書して共有する | docxで書き出せるか、話者名と見出しが残るか |
| 社内Wikiやチャットに貼る | テキストやMarkdownでコピーできるか |
| 動画に字幕を付ける | SRT・VTTなどの字幕形式で書き出せるか |
| 発言を後から検索・集計する | CSVなどの表形式で書き出せるか、タイムスタンプが付くか |
| 社内の保存先に保管する | まとめて書き出せるか、ファイル名がどう付くか |
書き出したファイルは、必ず実物を開いて確認します。見るポイントは次の3つです。
- 日本語が文字化けしていないか
- 話者名やタイムスタンプが残っているか
- 長い会議でも途中で切れていないか
利用をやめるときに過去のデータをまとめて持ち出せるかも、この段階で確認しておきます。
7. 録音方法と会議参加者への配慮
録音の方法には、主に次の3種類があります。
- 会議にボット(自動で参加する録音用アカウント)が参加する
- PCやスマートフォンで音声を拾う
- 録音ファイルを後からアップロードする
ボットが参加する方式では、参加者一覧に表示されるため、相手に録音していることが伝わります。ただし、取引先の会議にボットを参加させてよいかは、相手の方針にもよります。
どの方式でも、録音することを参加者に伝えて了承を得る運用を、社内ルールとして決めておきます。録音や個人情報の扱いで判断に迷う場合は、社内の担当部署に確認してください。
試用で確かめる手順
候補を2〜3個に絞ったら、無料枠や試用期間を使って同じ条件で比べます。
- テスト用の音声を用意する:機密情報を含まない社内会議を、参加者の了承を得て録音します。台本を読み上げる模擬会議でも構いません。固有名詞、金額、日付、発言の重なりを意図して入れておきます。
- 同じ音声を各候補に入れる:候補ごとに別の会議を使うと、条件が違うので比較になりません。
- 評価表に記入する:下の表のように、確認項目ごとに結果を残します。
- 書き出したファイルを開く:使う予定の形式で書き出し、実際の保存先やWordなどで開きます。
- 削除を試す:テストデータを削除し、一覧、ゴミ箱、共有リンクから消えたかを確認します。
- 規約と設定を記録する:学習利用の設定、保存期間、確認した文書と日付を残します。
評価表の例:
| 確認項目 | 候補A | 候補B | 備考 |
|---|---|---|---|
| 固有名詞10語のうち正しく出た数 | 単語登録の前後で比べる | ||
| 金額・日付の誤り | 1件でもあれば箇所を記録 | ||
| 話者の分かれ方 | 対面とオンラインで分けて記録 | ||
| docxで書き出したとき話者名が残るか | |||
| 削除後に共有リンクが無効になるか | |||
| 学習利用の初期設定と変更できるか | 確認した文書名・日付 |
点数を付けるより、「業務で使えない理由がないか」を探すほうが判断しやすくなります。
選ぶときの判断の順番
最後は、次の順で判断すると迷いにくくなります。
- 扱う情報に対して、保存先・学習利用・削除の扱いが許容できるか
- 共有範囲を自分たちで管理できるか
- 使う会議の形(対面・オンライン)で、話者の識別と精度が実用になるか
- 必要な形式で書き出せるか、やめるときにデータを持ち出せるか
- 録音時間の上限と費用が、利用頻度に合っているか
1と2の条件を満たさない候補は、精度が高くても外します。精度は単語登録や話し方の工夫など、使い方である程度補えます。一方、データの扱いは利用者の側では変えられないためです。
