チームで生成AIを使い始めると、「この情報を入力してよいのか」「この出力をそのまま送ってよいのか」と迷う場面が増えます。そのつど誰かに聞いていると、答える人によって判断が変わり、聞かずに使う人も出てきます。
最初に用意したいのは厚い規程ではなく、迷ったときに開ける1枚の利用マニュアルです。この記事では、1枚に入れる項目と書き方の手順を説明します。
1枚に入れる7つの項目
| 項目 | 書く内容 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 1. 目的・対象者 | 誰が何のために読むか | 営業部と事務部の全員。業務で生成AIを使う前に読む |
| 2. 使ってよいツール | ツール名と使うアカウント | 会社で契約した○○(会社のアカウントに限る)。個人のアカウントは使わない |
| 3. 使ってよい業務・使わない業務 | 業務名を具体的に | 社内向け文書の下書きには使ってよい。契約書の判断には使わない |
| 4. 入力してはいけない情報 | 情報の名前を具体的に | 顧客の氏名・電話番号、未公開の見積金額、社員の評価 |
| 5. 出力の確認と確認する人 | 用途ごとに、誰が何を確認するか | 社外に出す文章は送る人が事実と数字を確かめ、初回は上長も確認する |
| 6. 困ったとき・事故時の連絡先 | 連絡先と最初にやること | 誤って入力したら作業を止め、○○さんに連絡する |
| 7. 版・見直し日・管理者 | いつ、誰が見直すか | 第1版 2026年10月、次回見直し 2027年1月、管理者 ○○ |
この7項目がそろっていれば、使う人は「使ってよいか」「入力してよいか」「誰に確認してもらうか」「困ったら誰に連絡するか」をこの1枚で判断できます。
作る手順
手順1:今の使い方を聞き取る
ルールを書く前に、チームが今どう使っているかを確かめます。聞くのは次の3点だけで十分です。
- どのツールを使っているか(個人のアカウントか、会社の契約か)
- どの業務に使っているか
- 使っていて迷ったこと、困ったこと
禁止事項を作るための調査だと思われると、正直な回答が集まりにくくなります。「使い方をそろえるため」と目的を伝えておきましょう。ここで集まった業務や迷いが、項目3〜5の材料になります。
手順2:使ってよいツールとアカウントを決める
ツール名だけでなく、どのアカウントやプランで使うかまで書きます。同じサービスでも、個人向けと法人向けでは入力データの扱いや管理機能が違う場合があります。
- 入力した内容がAIの学習に使われるか、その設定はどこで変えるか
- 会話履歴はどれくらい保存され、どう削除するか
- 管理者が利用状況を確認できるか
これらはサービスによって違い、時期によっても変わります。マニュアルに書く前に、各ツールの公式の説明や管理画面で確かめ、確認した日付も記録しておきます。
手順3:業務を「使ってよい」「条件付き」「使わない」に分ける
手順1で集めた業務を3つに分けます。
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 使ってよい | 社内メールの下書き、議事録の要約、表の整形、アイデア出し |
| 条件付き(確認者を通す) | 社外向けメールの下書き、Webに載せる文章、提案書の文章 |
| 使わない | 採用や評価など人事の判断、契約内容の判断、顧客への最終回答の自動送信 |
表の内容は一例です。自社の業務や取引先との約束に合わせて決めてください。「条件付き」にした業務には、項目5で必ず確認者を決めます。
手順4:入力禁止の情報を具体的な名前で書く
「機密情報は入力しない」と書くだけでは、何が機密にあたるかの解釈が人によって変わります。自社で実際に扱っている情報を、名前を挙げて書きます。
- 顧客や取引先の氏名、住所、電話番号、メールアドレス
- 未公開の見積金額、契約条件、売上
- 社員の人事評価、給与、健康に関する情報
- パスワード、APIキー、社内システムのURL
- 取引先から秘密を守るよう求められている資料
判断に迷う情報が出てきたときに誰に聞くかも、この項目に1行添えておきます。個人情報の扱いや取引先との秘密保持契約にかかわる部分は、法務や総務など社内の担当部署に確認し、必要なら専門家にも相談してから確定してください。
手順5:出力を確認する人と確認する内容を決める
生成AIの出力には、もっともらしく見える誤りが含まれることがあります。誰が何を確認するかを、用途ごとに決めておきます。
| 出力の用途 | 確認する人 | 確認すること |
|---|---|---|
| 自分だけが使うメモ | 本人 | 必要に応じて |
| 社内で共有する文書 | 本人 | 事実、数字、固有名詞 |
| 社外に送る文章 | 本人。初回や重要な案件では上長も | 事実、数字、約束してよい内容か |
| Webや印刷物に載せる文章 | 本人と、公開前の承認者 | 事実、表現、他社の権利を侵害していないか |
「確認する」とだけ書いても、何を見ればよいかは伝わりません。確認することも短く書いておきます。
手順6:困ったときと事故時の連絡先を書く
入力してはいけない情報を入力してしまった、誤った出力を社外に送ってしまった、といったときに最初にやることと連絡先を書きます。
- まず作業を止める(同じ会話に続けて入力しない)
- いつ、どのツールに、何を入力したかを控える
- 連絡先:○○さん(内線またはチャット)、不在のときは○○さん
自分だけで消したり隠したりして済ませないよう、「報告した人を責めない」と一言添えておくと、報告が早く上がるようになります。
手順7:版と見直し日を決める
ツールの機能や契約内容は変わります。作ったまま放置しないよう、次に見直す日を書いておきます。最初は3か月ほどで一度見直し、運用が落ち着いたら半年ごとに延ばすといった方法があります。ツールが変わったときや事故があったときは、見直し日を待たずに改訂します。
1枚のひな形
次のひな形の○○を、自社の内容に置き換えて使えます。
生成AI利用マニュアル(第1版)
対象:○○部の全員/業務で生成AIを使う前に読む
1. 使ってよいツール
・○○(会社契約のアカウントのみ)
・個人のアカウントや、承認されていないツールは業務に使わない
2. 使ってよい業務
・使ってよい:○○、○○、○○
・確認者を通す:○○、○○
・使わない:○○、○○
3. 入力してはいけない情報
・○○、○○、○○
・迷ったら、入力する前に○○さんに確認
4. 出力を使う前の確認
・社内向け:本人が事実・数字・固有名詞を確認
・社外向け:本人と○○が確認してから送る
・公開物:○○の承認を受けてから公開
5. 困ったとき・誤って入力したとき
・作業を止め、入力した日時・ツール・内容の概要を控える
・連絡先:○○(不在時:○○)
6. 管理
・管理者:○○ 作成日:○年○月 次回見直し:○年○月
1枚に収めるための書き方のコツ
- 行動で書く:「注意する」「適切に扱う」ではなく、「入力しない」「○○さんが確認してから送る」のように書きます。
- 例を1つは入れる:業務や情報の区分には、自社の具体例を添えます。
- 理由は一言にとどめる:禁止事項に「外部のサービスに送信されるため」といった理由が一言あると、例にない場面でも判断しやすくなります。
- 相談先は1つにする:相談先が複数あると、結局誰にも聞かれなくなりがちです。
- 詳しい説明は別の文書にする:ツールの操作方法や細かい判断基準は別の文書にまとめ、1枚には要点だけを残します。
配った後の運用
- 置き場所を決め、チャットの固定メッセージや共有フォルダの見つけやすい場所に置きます。
- 配るときに一度読んでもらい、分からない点を集めます。
- 寄せられた質問は記録しておき、同じ質問が何度も来たら、次の見直しで本文に反映します。
- 版を改めたら、何を変えたかを一言添えて知らせます。
よくある失敗
| 失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 何ページもある規程にした | 読まれず、迷ったときに該当箇所を探せない | 1枚の要点版を別に作る |
| 「機密情報」のような抽象的な言葉しかない | 人によって判断が分かれる | 情報の名前を挙げて書く |
| 確認者が書かれていない | 誰も確認しないまま社外に出る | 用途ごとに確認する人を書く |
| 作ったまま放置した | ツールの仕様変更に追いつかない | 見直し日と管理者を書く |
| 禁止事項しか書いていない | 使ってよい範囲が分からず、使われないか、隠れて使われる | 使ってよい業務を先に書く |
