会議の文字起こしをAIに渡すと、数分で議事録らしい文章が出てきます。ただ、そのまま共有すると次のような誤りが混ざることがあります。
- 検討中だった話が決定事項として書かれる
- 「こちらでやります」の「こちら」が別の人に割り当てられる
- 文字起こしの聞き間違いで、金額や日付がそのまま誤って残る
- 発言していない人の発言として書かれる
AIの出力は下書きとして扱い、原文と照合してから確定するのが前提です。この記事では、AIへの渡し方、指示の書き方、出力の照合までを順に説明します。
全体の流れ
| 段階 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 1. 素材を整える | 文字起こし・参加者一覧・用語をそろえる | 人 |
| 2. 指示を出す | 出力の形と禁止事項を指定する | 人 |
| 3. 下書きを作る | 決定事項・担当・期限・未決事項に整理する | AI |
| 4. 照合する | 数字・固有名詞・発言者・決定の区別を原文で確かめる | 人 |
| 5. 確定・共有する | 不明点を参加者に確認し、確定版を配る | 人 |
AIが受け持つのは3の段階だけです。残りは人が行います。
1. AIに渡す前に素材を整える
AIは、渡されていない情報を推測で補おうとします。推測の余地を減らすため、文字起こしと一緒に次の情報を渡します。
- 会議の基本情報:会議名、日付、目的、議題の一覧
- 参加者一覧:正式な氏名と所属・役割。文字起こしの話者ラベル(話者1、話者2など)と誰が対応するかも書く
- 用語・固有名詞の一覧:商品名、取引先名、社内の略語など、文字起こしで誤変換されやすい語
- 会議の日付を基準にした暦:「来週金曜」などの相対表現を日付に直すため
文字起こしが長い場合は、議題ごとに区切って渡すと、取りこぼしや混同が減ります。
個人情報や機密情報の扱いは、社内ルールに沿って処理を済ませてから渡してください。
2. 出力の形を指定する指示文
「議事録にまとめて」だけでは、AIはきれいな文章を作ることを優先し、決定と検討の区別や担当者の特定があいまいになりがちです。出力の形と、やってはいけないことを指定します。
以下は会議の文字起こしです。議事録の下書きを作ってください。
# 出力の形
1. 決定事項:決まったことを1行1件で。
2. タスク:「内容/担当者/期限」の形で1行1件。
3. 未決事項:結論が出なかったこと、持ち越しになったこと。
4. 確認が必要な点:文字起こしから判断できなかったこと。
# 守ること
- 文字起こしに書かれていないことは書かない。
- 担当者や期限が発言で明示されていない場合は「未定」と書き、推測で埋めない。
- 「〜の方向で」「〜を検討」など結論が出ていないものは、決定事項に入れず未決事項に入れる。
- 金額・数量・日付・割合は文字起こしの表記のまま書き、計算や丸めをしない。
- 相対的な日付(来週金曜など)は、会議日を基準に日付へ直し、元の表現も括弧で残す。
- 各項目の末尾に、根拠となる発言の話者名とタイムスタンプを付ける。
# 会議情報
会議日:2026年10月6日(火)
参加者:話者1=山田(営業)、話者2=佐藤(制作)、話者3=鈴木(経理)
用語:〇〇プラン、△△社
# 文字起こし
(ここに貼り付け)
指示の中で特に効くのは、根拠の発言とタイムスタンプを付けさせることです。照合のときに、録音や文字起こしのどこを見ればよいかがすぐ分かります。根拠が付いていない項目は、AIが推測で補った可能性があるという目印にもなります。
3. 下書きをざっと見て、怪しい箇所に印を付ける
下書きが出たら、細かく照合する前に全体を見て、次のような箇所に印を付けます。
- 根拠の発言・タイムスタンプが付いていない項目
- 決定事項の中にある「〜する方向」「〜を目指す」「〜予定」などのあいまいな語
- 担当者が「チーム」「先方」「こちら」など、人に特定されていないもの
- 期限が「早めに」「来週中」など、日付になっていないもの
- 会議の雰囲気からすると、話題になった覚えのない項目
印を付けた箇所は、次の照合で優先して確認します。
4. 原文・録音と照合する
照合は、項目の種類ごとに見るポイントが違います。
| 照合する対象 | 起きやすい誤り | 確認の仕方 |
|---|---|---|
| 金額・数量・割合 | 「15」と「50」、「1割」と「1分」などの聞き間違い。単位の抜け(千円か円か) | タイムスタンプの位置で録音を聞き直す。資料があれば資料の数字と突き合わせる |
| 日付・期限 | 曜日と日付のずれ。相対表現の換算ミス | カレンダーで日付と曜日を照らし合わせる。元の発言の言い回しを確認する |
| 固有名詞 | 取引先名・商品名・人名の誤変換。似た名前の取り違え | 用語一覧・参加者一覧と1件ずつ突き合わせる |
| 発言者 | 話者ラベルの付け間違い。相づちを打った人が発言者として扱われる | 録音の声で確認する。誰の発言かで意味が変わる箇所を優先する |
| 担当者 | 「こちらで」「うちで」が誰を指すかの取り違え | 前後の発言を読み、話している人の所属から判断する。判断できなければ未定にする |
| 決定か未決か | 「その方向で」「一度持ち帰ります」が決定扱いになる | 結論の発言があるか。最後に誰かが了承しているか |
| 抜け漏れ | 会議の終盤や、雑談に紛れた決定が拾われない | 議題一覧と下書きを並べ、議題ごとに結論が書かれているか確かめる |
文字起こし自体の誤りにも注意する
AIの要約が正しくても、元の文字起こしが誤っていれば議事録も誤ります。数字や固有名詞のように、誤ると影響が大きい箇所は、文字起こしの文字だけで判断せず、録音の該当箇所を聞いて確かめるのが確実です。録音がない場合は、会議中に取った手書きメモや配布資料と突き合わせます。
照合で直した箇所を残しておく
照合で直した箇所は、簡単でよいので記録しておきます(例:「金額 150万円→15万円、録音12:34で確認」)。どの種類の誤りが多いかが分かれば、次回からの指示文や用語一覧の改善に使えます。
5. 不明点を確認してから確定版を共有する
照合しても判断できなかった点は、推測で埋めずに参加者へ確認します。
〇〇会議の議事録案をお送りします。
次の2点が録音から判断できなかったため、ご確認をお願いします。
- 見積書の再提出の担当は、山田さんと佐藤さんのどちらでしょうか。
- △△社への回答期限は10月17日(土)でよろしいでしょうか。
10月8日(木)中にご返信いただければ、確定版を共有します。
確定版を共有するときは、次の点を確かめます。
- 担当者として名前が挙がっている人が、期限とあわせて自分のタスクを把握しているか
- 未決事項に、次にいつ・誰が判断するかが書かれているか
- 共有するのが照合済みの版であり、AIの出力そのままではないか
次回からAI議事録を楽にする工夫
照合の手間は、会議の進め方でも減らせます。
- 会議の最後に決定事項・担当・期限を口頭で読み上げる:文字起こしの終盤に結論がまとまって残り、AIも拾いやすくなる
- 数字は単位まで言う:「15万円」「150件」のように単位を付けると、聞き間違いに気づきやすい
- 担当は名前で呼ぶ:「こちらで」ではなく「山田が対応します」と言う
- 用語一覧を使い回す:会議ごとに作り直さず、追加していく
AIに任せるのは、文字起こしを決められた形に並べ替える作業です。決定かどうか、誰が担当か、数字が正しいかを確定させるのは人の役割です。その分担を守れば、議事録作成の時間を短くしながら、誤りの少ない記録を残せます。
