手順書を一から書くと時間がかかります。作業メモや操作の箇条書きをAIに渡せば、文章として読める下書きはすぐにできます。ただし、AIの下書きは「整って見える」ことと「その通りに操作できる」ことが別です。メモにない手順を補ったり、画面にないボタン名を書いたりすることがあります。そのため、下書きは実際に操作して確かめてから使います。

この記事で扱うのは次の流れです。

  • 材料をそろえてAIに下書きさせる
  • AIが足した部分に印を付けさせる
  • 操作しながら、抜け・順番違い・存在しない操作を直す

手順書に入れる項目や全体の構成は、業務手順書の作り方とSOPの記事で扱います。この記事は「AIの下書きを使える状態にする」部分に絞ります。

全体の流れ

  1. 材料を集める(作業メモ・画面の流れ・入力例)
  2. 渡す前に個人情報・機密情報を伏せる
  3. 「補った部分に印を付ける」という条件を付けてAIに下書きさせる
  4. 下書きを「メモ由来」「AIの補足」「要確認」に分ける
  5. 手順書だけを見て実際に操作し、1手順ずつ照合する
  6. 見つかったずれを人が直し、作成者以外にも試してもらう

1. AIに渡す材料を集める

AIが正確に書けるのは、渡された情報の範囲だけです。足りない部分は推測で埋められやすいため、材料を厚くしておくほど、あとで直す量が減ります。

材料 集め方 注意点
作業メモ 作業中に書いた箇条書き、チャットに残した手順 省略している「いつもの操作」を書き足す
画面の流れ 作業しながら、開いた画面名と押したボタン名を順に書き出す 画面の表記をそのまま写す。自分の呼び方に変えない
入力例 入力する値の形式(日付の書式、コードの桁数など) 実データではなくダミー値にする
分岐・例外 「エラーが出たら」「該当がなければ」など、毎回は起きない対応 思い出せる範囲で箇条書きにする
完了の確認 何が表示されたら終わりか、結果がどこに残るか 「保存しました」などの表示文言をそのまま書く

特に役立つのが「画面の流れ」を作業しながら書き出すことです。記憶から書くと、無意識にしているクリックや確認ダイアログが抜けます。スクリーンショットを撮った場合は、画面内のボタン名やメニュー名を文字でも書き添えます。AIが名前を推測する余地が減ります。

渡す前に伏せるもの

顧客名・メールアドレス・社内システムのURL・ID・パスワード・取引金額などは、AIに渡す前に置き換えます。「株式会社〇〇」は「取引先A」、実際のURLは「(社内システムURL)」のように、手順の理解に必要な形だけを残します。どこまで入力してよいかは、社内の生成AI利用ルールに従ってください。

2. AIへの頼み方

AIには「メモにないことを書かない」だけでなく、「補ったら印を付ける」ことも求めます。補うのを禁止するだけだと、手順の途中が不自然に飛んだまま残ります。逆に黙って補わせると、どこを確認すべきか分からなくなります。

依頼文の例です。

以下の作業メモから、業務手順書の下書きを作ってください。

条件:
- 手順は番号付きで、1つの番号に1つの操作だけを書く
- 画面名・メニュー名・ボタン名は、メモに書かれた表記をそのまま使う
- メモにない操作や画面名を補った場合は、その行の末尾に【補足】と付ける
- メモから判断できない点は手順に書かず、最後に【要確認】として質問の一覧にする
- 一般的なソフトの操作方法から推測して埋めない

作業メモ:
(ここに貼る)

「一般的な操作方法から推測して埋めない」と書くのは、ソフトのバージョンや社内の設定によって画面が違うためです。AIは一般的な画面構成をもとに、それらしいメニュー名を書くことがあります。

なお、印の付け方が必ず守られるとは限りません。印のない行にも補足が混じっている前提で、次の照合に進みます。

3. 下書きを3種類に分ける

受け取った下書きを作業メモと並べて読み、各手順を次の3つに分けます。

  • メモ由来:メモに対応する記述がある。言い換えで意味が変わっていないかを確認する
  • AIの補足:【補足】の付いた行と、印はないがメモに対応する記述が見つからない行
  • 要確認:AIが質問として挙げた点。答えを書き足すか、分岐として手順に加える

この時点では、AIの補足は「正しいかもしれないが、まだ確認していない記述」として扱います。メモ由来の行も、言い換えで意味がずれることがあります。たとえば「保存する」が「上書き保存する」に変わると、操作の意味が違ってしまいます。

4. 手順書だけを見て実際に操作する

照合は読むだけでは足りません。手順書を横に置き、書いてあることだけを頼りに最初から操作します。記憶で操作を補うと、抜けが見つからなくなります。

確認表を用意しておくと、ずれを記録しながら進められます。

手順 書かれている操作 実際の画面・結果 判定 修正内容
3 「出力」ボタンを押す ボタン名は「エクスポート」 名前違い ボタン名を画面の表記に直す
5 保存先を選ぶ その前に形式を選ぶ画面が出る 抜け 形式を選ぶ手順を追加
7 「一括承認」を押す 該当するボタンがない 存在しない操作 削除し、実際の承認方法を書く

よくあるずれと直し方

ずれの種類 見つかる場面 直し方
抜け 書かれた操作の間に、別の画面や確認ダイアログが出た 出た画面と押したボタンを手順に加える
順番違い 書かれた順に進むと、入力欄がまだ表示されていない 実際に操作できた順に並べ替える
存在しない操作 メニューやボタンが見当たらない 削除して実際の操作に置き換える。目的ごと不要なら手順を消す
名前違い 似た機能はあるが表記が違う 画面の表記に合わせる
条件の欠落 特定の条件のときだけ別の画面になる 「〇〇の場合は」と分岐を書く
結果の書き漏れ 操作後に何を確認すればよいか分からない 表示される文言や確認する場所を書く

「存在しない操作」は、AIが補った行で特に起こりやすいずれです。見当たらないときは見落としの可能性もあるので、まずメニューを一通り確認します。ソフトのヘルプや公式マニュアルで機能の有無を調べられるなら、そちらも見ます。権限によって表示されないボタンもあります。「自分の画面にない」だけで判断せず、実際に手順書を使う人の権限でも確認します。

取り消せない操作は本番で試さない

送信・削除・確定・支払いなど、取り消しにくい操作は、照合のためだけに本番データで実行しないでください。テスト環境やダミーデータがあればそこで試します。ない場合は確定の直前まで操作して画面を確認し、最後の操作は通常業務で実際に行うときに確かめます。

5. 修正は人が直接書き込む

見つかったずれは、確認表を見ながら人が手順書に直接反映するのが確実です。修正内容をAIに渡して全体を書き直させると、確認済みの手順まで言い回しや順序が変わることがあります。

AIに文章の整え直しを頼むときは、「手順の追加・削除・並べ替えはしない」「画面名を変えない」と条件を付けます。戻ってきた版は修正前の版と比べ、意図しない変更がないか確かめます。Wordの文書比較などを使うと、差分を見落としにくくなります。

6. 作成者以外に試してもらう

作った本人は手順を知っているので、書かれていない操作を無意識に補ってしまいます。できれば、その作業に慣れていない人に手順書だけで操作してもらいます。止まった所や迷った所を記録してもらうと、そこが抜けか説明不足の箇所です。

使い始める前のチェックリスト

  • 【補足】【要確認】の印がすべて解消されている
  • 手順書だけを見て、最初から最後まで操作した
  • 画面名・ボタン名が実際の画面の表記と一致している
  • 存在しない操作が残っていない
  • 分岐・例外の手順が書かれている
  • 完了をどう確認するかが書かれている
  • 伏せた情報(取引先Aなど)を、手順書として必要な形に戻すか、伏せたままにするかを決めた
  • 確認した日付と、確認したソフトのバージョンを記録した
  • 作成者以外の人が一度操作した

確認した日付とバージョンを残しておくと、画面が変わったときに、手順書のどこを見直せばよいか判断しやすくなります。

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