消費税の簡易課税制度では、実際の仕入れや経費に含まれる消費税を一件ずつ集計する代わりに、売上に係る消費税額と、事業区分ごとの「みなし仕入率」を使って仕入控除税額を計算します。
ただし、簡易課税は、
「売上5,000万円以下なら自動的に使える」
制度ではありません。
確認する順番は、
基準期間の売上 → 届出 → 事業区分 → 複数事業の区分 → 75%特例 → 2割/3割特例からの移行
です。
1. まず基準期間の課税売上高を確認する
国税庁No.6505では、簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間について利用できる制度とされています。
個人事業者の基準期間は原則として前々年です。
たとえば、ある年分で簡易課税を検討するときは、単純に今年の売上だけを見るのではなく、その年分の基準期間を確認します。
基準期間の課税売上高が5,000万円を超える課税期間は、簡易課税制度選択届出書を提出済みでも簡易課税を適用できません。
2. 届出書の提出状況を確認する
簡易課税制度を選択する場合、原則として「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出します。
通常は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出するのが原則です。
ただし2026年時点では、2割特例・3割特例から簡易課税へ移る人について重要な例外があります。
国税庁の届出手続では、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間に簡易課税を利用する場合、一定の条件のもと、その課税期間の申告期限までに届出書を提出することで、その課税期間から簡易課税を適用できる措置が案内されています。
したがって、
「前年の12月31日までに出していないから絶対に間に合わない」
と通常ルールだけで判断しません。
3. 6つの事業区分とみなし仕入率
国税庁No.6505・6509では、簡易課税の事業区分とみなし仕入率を次のように定めています。
| 事業区分 | 主な事業 | みなし仕入率 |
|---|---|---|
| 第1種 | 卸売業 | 90% |
| 第2種 | 小売業等 | 80% |
| 第3種 | 製造業等 | 70% |
| 第4種 | その他の事業 | 60% |
| 第5種 | サービス業等 | 50% |
| 第6種 | 不動産業 | 40% |
ここで注意したいのは、普段使う「業種名」と消費税上の事業区分を同じものとして扱わないことです。
たとえば製造小売のように、一般的な産業分類の感覚だけで簡易課税の区分を決めると誤る場合があります。
4. 第4種は「その他」
第4種は、第1種・第2種・第3種・第5種・第6種のいずれにも該当しない事業です。
そのため「自分の業種が一覧にないから第5種サービス業」と自動判断しません。
売上の内容が何なのかを見て区分します。
5. 複数の事業をしている場合は売上を分ける
簡易課税では、複数の事業を営んでいる場合、原則として事業区分ごとに課税売上を分けて計算します。
たとえば、
- 商品販売
- コンサルティング
- 不動産賃貸
のように性質の違う売上があるなら、全部を一つの事業区分にまとめるとは限りません。
国税庁No.6505では、2種類以上の事業を営む事業者が課税売上を事業ごとに区分していない場合、区分していない部分については、その区分していない事業のうち最も低いみなし仕入率を使う取扱いが示されています。
そのため、簡易課税を使う可能性があるなら、売上を記帳する段階で事業区分を残せる設計にしておく方が安全です。
6. 1種類の事業が75%以上なら特例計算がある
2種類以上の事業を営んでいても、1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上を占める場合、一定の条件のもと、その事業のみなし仕入率を全体の課税売上に適用できる特例があります。
たとえば、第5種事業が売上の大部分を占め、少額だけ別区分の売上がある場合などです。
ただし、
「主力事業が多いから全部その区分でよい」
と自己判断するのではなく、75%要件と計算方法を確認します。
7. 3種類以上の事業にも別の75%特例がある
3種類以上の事業を営み、特定の2種類の事業の課税売上高合計が全体の75%以上を占める場合にも、一定の特例計算があります。
複数事業の簡易課税は、単純な業種表だけでは処理できません。
このサイトでは、
売上ごとの事業区分を記録 → 構成比を計算 → 75%特例の候補を確認
という順にします。
8. 固定資産の売却は本業と同じ区分とは限らない
国税庁No.6509のQ&Aでは、事業者が自己使用していた固定資産等を譲渡する場合、本業の事業区分にかかわらず原則として第4種事業に該当する取扱いが示されています。
つまり、
普段は第5種サービス業
→ 中古の事業用PCを売った
→ 売却も全部第5種
と自動的には扱いません。
こうした例外があるため、「事業者の職業」ではなく「その売上が何によって生じたか」を確認します。
9. 2割特例・3割特例と簡易課税を混同しない
2割特例・3割特例と簡易課税は別の制度です。
個人事業者については、
- 2026年分まで:要件を満たせば2割特例
- 2027年・2028年分:一定の要件を満たせば3割特例
という経過措置があります。
簡易課税を使える人でも、特例の対象であれば、どの計算方法を確認するかという別の判断が必要です。
「簡易課税は必ず得」「3割特例は必ず得」とは一律に決めません。
10. 2割・3割特例の翌年に簡易課税へ移る場合
ここは2026年度税制改正で重要なところです。
国税庁は、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間から簡易課税制度を適用する場合、一定の条件のもと、通常より遅い時点まで届出を認める円滑な移行措置を案内しています。
したがって、3割特例を2028年分で利用した個人事業者が、その次の年から簡易課税を検討するときは、通常の届出期限だけで諦めず、最新の国税庁案内を確認します。
簡易課税を確認するチェックリスト
- [ ] 対象の課税期間を確認した
- [ ] 基準期間を確認した
- [ ] 基準期間の課税売上高が5,000万円以下か確認した
- [ ] 簡易課税制度選択届出書の提出状況を確認した
- [ ] 2割・3割特例の翌課税期間に該当するか確認した
- [ ] 売上を第1種〜第6種へ区分した
- [ ] 複数事業の売上を区分して記録した
- [ ] 75%特例の対象になるか確認した
- [ ] 固定資産売却など例外売上を確認した
- [ ] 一般課税・2割/3割特例との比較が必要か確認した
まとめ
簡易課税制度は「自分の業種のみなし仕入率を調べれば終わり」ではありません。
確認順は、
基準期間5,000万円以下 → 届出 → 事業区分 → 複数事業の区分 → 75%特例 → 2割/3割特例からの移行
です。
このページでは制度を利用できるか、売上をどう区分するかまでを扱います。一般課税・2割/3割特例も含めた実際の税額比較は、別ページで扱います。
参考一次情報
- 国税庁「No.6505 簡易課税制度」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm
- 国税庁「No.6509 簡易課税制度の事業区分」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6509.htm
- 国税庁「消費税簡易課税制度選択届出手続」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/1461_13.htm
- 国税庁「令和8年度税制改正特集」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice-review/
最終確認日:2026年9月28日
※簡易課税は一度選択すると、原則として適用開始から2年を経過するまで不適用届を提出できません。単年度の納付額だけで選ばず、翌年以降や設備投資予定も含めて確認します。
